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広島地方裁判所 昭和39年(行ウ)17号 判決

原告 太田清

被告 広島国税局長 外一名

訴訟代理人 山田二郎 外四名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

原告主張の請求原因一、二、三の事実及び原告の昭和三七年中の所得のうち配当所得、不動産所得、給与所得(別表(一)参照)金額は当事者間に争いがない。

成立に争いがない〈証拠省略〉の結果によると、原告は昭和三七年三月二二日同人所有の広島市愛宕町二一四番地宅地五二坪五五、同町二一五番地宅地六二坪一一右両地の仮換地同町一二五の一ブロツク一ロツト宅地五三坪六六を日本食堂株式会社に代金六八〇万円で売渡し、同年六月一八日河合肇から東京都港区麻市笄町一四二番地宅地一一九坪二合及び同地上の木造瓦葺二階建居宅一棟建坪一七坪五合を代金五四〇万円で買受け、右家屋に原告の長男正孝を居住せしめたことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。そこで、右不動産の買換が租税特別措置法第三五条の要件に該当するか否かにつき案ずるに、同条は昭和三八年法律第六五号で一部改正されているが、同法附則第四項によれば改正法は昭和三八年一月一日以後に行われる資産の譲渡に適用され、昭和三七年以前の資産の譲渡についてはなお従前の例によるとされているから本件は右改正前の法律によるべきであり、この点の原告の主張は採用できない。ところで原告は、前記事実が同条(右改正前のもの、以下同じ)にいう個人が土地、若しくは土地の上に存する権利又は家屋の譲渡をし、その年の一二月三一日までに、当該個人の居住用の土地等及び家屋を取得した場合に該当すると主張するが〈証拠省略〉によれば、原告の長男正孝は昭和三七年中にその所有株式の配当金として六〇、六七四円の支払を受けていることが認められ、原告は右配当は実質上原告の所得であると主張するが、右〈証拠省略〉により原告はその申告をしていないことが明らかであるから禁反言ないし信義則上右主張は失当であり、右認定に反する原告本人尋問の結果(第二回)は採用できず、他に右認定を覆すに足る証拠はなく、右によれば正孝は所得税法(昭和二二年法律第二七号、以下同じ)第八条第二項に照らし、原告の扶養親族とは認められず、また、前記原告の買受家屋を原告が居住の用に供した旨の原告本人尋問の結果(第二回)は〈証拠省略〉に照らし措信できず、他に右家屋を原告またはその扶養親族(租税特別措置法施行令第二四条第二項参照)が居住の用に供したと認めるに足る証拠はない。そうすると、本件譲渡不動産が居住用財産であるか否かにつき判断するまでもなく、右譲渡所得について、改正前の租税特別措置法第三五条の適用の余地はないこととなりこの点についての原告の主張は理由がないものというべきである。

次に原告は本件譲渡所得の計算において、不動産の取得価格が廉価にすぎると主張するが、所得税法第一〇条の五は昭和二七年一二月三一日以前に取得した資産の取得価額の特例を設け、戦後のインフレに対処しており、〈証拠省略〉によれば、被告広島東税務署長は右取得価格の算出につき前記所得税法第一〇条の五第三項第二号、同施行規則第一二条の一九第四項に従つて計算していると認められるから、本件取得価額の算出が違法であるとはいえず、この点についての原告の主張は採用できない。

そうすると、他に違法事由の認められない本件においては被告広島東税務署長がした本件更正決定及び国税通則法第六五条第一項に従つた過少申告加算税の賦課決定は適法なものというべきであり、原告の右決定の取消を求める請求は理由がなく、また、被告署長のなした異議棄却決定、被告広島国税局長のなした審査請求棄却決定の各取消の請求は、原処分の違法事由を理由とする限りにおいて行政事件訴訟法第一〇条第二項に照らし理由自体失当であり、仮に右各審査決定の手続に違法があるとしても、前認定のとおり原処分に何ら違法な点がない以上、これを取消すことは無意味であり(最判昭和三七年一二月二六日集一六-一二-二五五七参照)、結局原告の右各請求も理由がないことに帰する。

よつて、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 長谷川茂治 雑賀飛龍 河村直樹)

別表(一)(二)〈省略〉

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